約2年ぶり、ひさしぶりのご来店に嬉しくなってしまいました。
抱えてこられた風呂敷包の中身は、黒留袖と袋帯がふたつ。3月末にお召しになるご予定の黒留袖は、日本舞踊藤間流の名取として舞台に立たれていらした頃に誂えられたもの。広げると、いかにも藤間流の下り藤の柄が裾絵羽模様に藤間の五つ紋。こちらをお召しになるにはひとつ足りないものがあります。そう、比翼です。
黒留袖とは黒無地五つ紋付き裾絵羽模様と言って、その名の通り真っ黒なきものに五つの家紋を入れて裾に吉祥文様のあるきものです。女性の御祝儀における第一礼装としてお召しになるものですが、その昔は長襦袢と黒留袖との間にもう一枚白いきものを重ね着していました。これに帯は丸帯や袋帯を二重太鼓に結んで。これはお祝い事ですから「慶びが重なるように」という意味も込められてのこと。
しかしながら長襦袢の上にきものを着てその上にさらに黒留袖を着て、さらに丸帯みたいに重たい帯を結んでというのは体への負担も大変。ということで近年は、衿、袖口、振り、裾まわりにさも重ねて着ているように見せるための布を縫い付けています。これを「比翼」と言い、縫い上がった状態を「比翼付」とか「比翼仕立て」と言います。
ということで、本日お預かりした黒留袖にも寸法に合わせて比翼を仕立てて縫い付けるのです。真っ新な比翼地を取り寄せて、いざ変、身。