七宝文様の浴衣。

 今年仕入れた中で、僕が最も気に入っていた浴衣の嫁ぎ先が決まりました。
 仕入先は、知人の紹介で今年から取引を始めた江戸の老舗「丸久商店」さん。正確無比なプリントが盛んな時代に、頑なに昔ながらの注染めにこだわり続けていらっしゃいます。あ、弊社も。色と色の重なりに生まれる何とも言えない滲み、型紙の長さに生地をたたんで染める工程ならではの継ぎ目、ほのかに残る独特の染料の香りなど、図案を考えた方から染めて仕上げる方までの想いや汗が約13mに凝縮されているのです。残念ながら知人が紹介してくれたのが染め出しが始まった後だったので、他社よりも後塵を拝してしまい、たくさんあった色柄の中には欲しくても発注できないものがあったのですが、この一反はまさに首の皮一枚ならぬ晒し一枚が繋がったカタチで手に入れることができました。
 この柄は七宝[しっぽう]文様と言い、仏教用語にある金、銀、水晶、瑠璃(るり)、瑪瑙(めのう)、珊瑚(さんご)、しゃこの七つの宝を円(輪)で表していると言われています。また円に円満や縁を、輪に和を掛け、それが延々と繋がることで繁栄を表し、古くから吉祥文様として大切にされてきました。茶色い綿から紡いだ糸を織り込んだ生地に、浅葱色で染められた七宝文様。ところどころに色を重ねたぼかしがアクセントになっています。
 なーんて手にした時から、一体どんな方に嫁ぐのだろう?と楽しみにしていたのですが、ひと月ほど前に「この柄、素敵ですねぇ」とおっしゃっていた方が、本日ご家族でお鮨ランチにお出掛けになったついでにご来店。すると何気なく転がした反物の中から「あら、この柄がいいじゃない!」とお母様が指差されたのは奇しくも同じ反物。「じゃあ、これでお願いします!」とひと月前の御縁が繋がっていました。
 七宝文様とはよく言ったものです。

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