「あ、まだしつけ糸がついたまんま」
着付けのために持ってこられた着物にはよくあることなのですが、今回は特別でした。お孫さんのお宮参りにお召しになった紬の付け下げ。藍色に同系色のコーディネートがおしゃれな名古屋帯。小物はすっきりと白で。
「素敵なお着物ですね」
「これね、池田屋さんでで買ってもらったのよ〜」
「そうでしょう。衿の裏に池田屋のタグが付いてました」
「もう30年前かな〜。私がお嫁に来るときに、帯でも買ってあげようかって言われて見に来たんだけど、それなら『あの、ショーウィンドウのきものが欲しい』って言ったのよ〜。皆んなから、若いのに渋すぎるって言われてね〜」
ショーウィンドウからお客様のもとへ。30年間じっと出番を待って今日、初めて袖を通されたのです。
よかったね。嬉しいね。ついついきもの目線。おかえり。いってらっしゃい。