手前織りの男前羽織。

 久しぶりの御要望で、お客様宅の箪笥の整理に伺って参りました。
 数年前に3棹あった箪笥の中身を一度すべてお座敷に広げて、要るものと要らないもの、お手入れをするものとしないものに分け、すべての畳紙を刷新し、箪笥の引き出しを消毒して、引き出し一段ごとに乾燥剤を入れ、きものや帯の種類ごとに分けて箪笥にしまいました。そんな今朝、「今日、来れる?」と突然のお電話。特に予定がなかったお昼すぎに伺うと、すでに箪笥の中から引っ張り出されていました。そこで改めて種類を分け直して、きものをハンガーに掛けてしらばく風を通してあげることに。そうして夕方にふたたび伺うと、風に晒していたきものや帯たちは、妙な匂いが消え、アイロンをかけてあげるとシワもなくなり、畳紙に包んで箪笥に戻そうとしたその時!「これ、うちの御先祖様が来ていた羽織。あんたが一番きものを着るからあげる」と一枚の真っ黒な羽織が目の前に。
 よくよく拝見すると、いかにも手前織りの生地。手前織りとは、農家や漁師の家で冬などの閑散期にご自宅で育てたお蚕さんが吐いた糸を紡いで糸にして織られたもの。
 そんな大切なものを頂戴して良いのだろうか?と一瞬躊躇いましたが、せっかくの御提案。ここは素直に頂戴しました。

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