その日限りの色留袖。

 「仕立て上がりの長襦袢はありますか?」
 そうおっしゃったのは、お孫さんの結婚式に「ずっと前に誂えたままで一度も袖を通したことがなかった」という仕付け糸がついたままの色留袖の持ち主。とどのつまりは新郎のおばあさま。お嬢様である新郎のお母様もご一緒に。「本当は寸法を合わせた長襦袢を誂えるべきなんでしょうけど、この歳まで袖を通さなかった上に、その1日限りしか着ないから安いのでいいのよ、安いので」とは言え、寸法が合わなかったら当日ご本人も着付を担当される美容師さんも困られると思い、念のために採寸しておこうと色留袖を持ってふたたびのご来店。風呂敷包を広げて拝見すると、霞に寿の文字が金彩で並ぶ、さすがにおめでたい色柄。
 「そうそう、草履もお願いしておくね」と追加のご注文も頂きました。
 さらにお話を伺うと、
 「結婚式当日は母の88回目の誕生日なんです。祝儀には親戚一同が会するので、つづけて米寿の祝いもしてあげるんですよ」とのこと。
 その日限りの色留袖をお召し頂く価値がありすぎますよね。

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